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「正解」はもう価値じゃない——金子一馬×宮田裕章が語る、AI時代の人間の価値

AI記事要約

生成AIの進化によって、エンターテインメントのあり方は大きな転換期を迎えています。その中で、コロプラが手がけたスマートフォン&PCゲーム『神魔狩りのツクヨミ※』は、生成AIを活用した新たな創作の可能性を提示する作品として注目を集め「生成AI大賞2025」のグランプリを受賞しました。しかし、その評価は単なる技術的な新しさにとどまるものではありません。AIという手段を通じて、どのような体験が生まれるのか。エンターテインメントとしての本質が問われています。そこで今回は、これまで『女神転生』シリーズなどの作品で独自の世界観を築き、現在はコロプラに所属するゲームクリエイター・金子一馬と、日本におけるAIの社会実装をリードする研究者・宮田裕章氏による対談を実施。 「AI時代におけるエンターテインメントの価値とは何か」というテーマのもと、創作と社会、それぞれの視点から掘り下げていきます。

※『神魔狩りのツクヨミ』・・・コロプラが手がけたスマートフォン&PCゲーム。生成AIをゲーム体験に組み込んだ先駆的な作品。その世界観はさらに進化し、『KAZUMA KANEKO'S ツクヨミ』としてNintendo Switch™用ソフトへと展開されている。

金子 一馬のプロフィール画像

株式会社コロプラ コンセプトプランナー/神魔画家

金子 一馬

1990年代よりゲームグラフィック制作を中心に開発に従事。アトラス在籍時には『女神転生』シリーズをはじめ、『デビルサマナー』『ペルソナ』シリーズなどでキャラクターデザインやコンセプト設計を手がけ、“悪魔絵師”として独自の世界観を確立。2023年にコロプラへ参画し『神魔狩りのツクヨミ』や最新作『KAZUMA KANEKO'S ツクヨミ』の開発・運営に携わる。

宮田 裕章のプロフィール画像

慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室 教授 一般社団法人Generative AI Japan 代表理事

宮田 裕章

東京大学大学院を修了後、データサイエンスを専門に医療・政策・産業など幅広い領域で研究・実装に従事。2015年に慶應義塾大学医学部教授に就任。2023年にGenerative AI Japanを設立。代表理事として、日本におけるAIの社会実装とルール形成をリードしている。

異なる領域で“異質”を貫いてきた二人

まずは、自己紹介をお願いします。

宮田

はい。Generative AI Japanの代表理事として、AIの社会実装やルール形成に関わっています。あわせて大学では教授として研究にも携わっていて、アカデミアと実社会の両方の立場からAIと向き合っています。企業や行政と一緒に「AIをどう使うか」という実装にも関わりながら、技術そのものというよりは「AIが社会や人の体験をどう変えていくのか」というところを見ていますね。

金子

コロプラでゲーム開発に関わっています。ずっとクリエイターとしてやってきているので、今も基本は現場ですね。新しい表現や体験をどう作れるか、ずっと考えています。

お二人は今日が初対面なんですよね?

宮田

そうなんです。僕は女神転生シリーズもずっとやってきていて、本当に影響を受けてきました。いわゆる“金子チルドレン”なんです(笑)。

金子

ありがとうございます(笑)。

宮田

金子さんの作品って、世界観の作り方が圧倒的なんですよね。自分の中ではかなり影響を受けてきた存在です。

金子

ありがとうございます。嬉しいです。実は僕も、宮田さんのことはメディアで拝見していて。「この人、面白いことやってるな」と気になっていたんですよ。こうしてお話しできるのは嬉しいですね。

生成AI大賞で評価されたのは、技術だけではなく「人」の力。

今回の『神魔狩りのツクヨミ』の「生成AI大賞2025」グランプリ受賞について、どう受け止めていますか?

宮田

今回の受賞も含めて思うのは「AIがすごい」という話ではないということなんですよね。もちろん技術的な新しさはあるんですけど、それだけでは評価されない。最終的には、それによって「どんな体験が生まれているか?」「エンターテインメントとして成立しているか?」がすべてだと思っています。昨日も『KAZUMA KANEKO’S ツクヨミ※』をやっていたんですけど、金子さんを模したキャラクターとバトルして、やられました(笑)。相変わらず容赦ないなと。ちゃんとやられるんですよね。

金子

ははは(笑)。でも、やっていること自体は昔からあまり変わってないんですよ。結局、どういう体験になるか、どう感じてもらうかっていうところをずっと考えているだけなので。AIを使っているかどうかは、その手段の一つでしかないというか。極端な話、AIがなくてもやることは同じなんですよね。プレイヤーがどういう感情になるのか、どういうタイミングで緊張したり、悔しいと思ったりするのか。その設計をずっとやってきただけなので。

宮田

まさにそこだと思っていて。さっきの「やられる」っていう体験も、ただ難しいということではなくて「ちゃんとやられる」設計になっているんですよね。理不尽ではないし、でも甘くもない。だから悔しいし、もう一回やりたくなる。AIって「それっぽい正解」を出すことはすごく得意なんですよ。過去のデータをもとに、平均的に“いいとされるもの”を出す。でも、その正解って、どこかで見たことがあるものでもあるし、必ずしも人の心に残るものではない。むしろ、少しズレていたり、違和感があったり「なんだこれ」と引っかかるものの方が、体験としては強くなる。そういう意味で、今回の『ツクヨミ』も、AIを使っているから評価されたというよりは「ちゃんと体験として成立しているか」が問われたんだと思います。

金子

そうですね。AIを使っているから面白い、ということではないんですよね。あくまで、それを道具として使って何を作るかなので。結局、プレイヤーがどう感じるかがすべてです。そこが成立していなければ、どんな技術を使っても意味がないと思いますし、逆に言えば、そこさえちゃんとしていれば、手段は何でもいいのかなと思っています。

※『KAZUMA KANEKO’S ツクヨミ』・・・『神魔狩りのツクヨミ』を全面再構築した、金子一馬が手がける最新作。前作でプレイヤーがAIによって生成したカード3,600点を活用しながら、プレイヤーの感情や体験設計に重きを置いた作品として展開されている。

※『生成AI大賞2025』グランプリ受賞について詳細は下記をご覧ください
https://colopl.co.jp/news/info/2025121502.php

正解だけでは価値にならない。世界観が人を動かす。

技術だけでは評価されないとすると、作品としての“強さ”はどこにあるんでしょうか。

宮田

やっぱり、そこは金子さんの作品を見ているとすごく感じるところなんですけど「世界観」の強さだと思うんですよね。単にビジュアルがかっこいいとかではなくて、その裏にある思想とか、構造とか、全部ひっくるめて“世界”として成立している。そこに惹き込まれるんだと思います。

金子

そうですね。私はよく「イラストレーター」って言われるんですけど、もちろん絵も描いてはいるんですが、それが本質かというと違うと思っていて。むしろ、自分の中では世界観とかコンセプトをどう作るか、そこをずっとやってきた感覚なんですよね。神話でも宗教でも、もともとあるものをそのまま使っているわけではなくて。いろんな解釈がある中で「どういう世界として成立させるか」を考えているだけなんです。

宮田

今のお話、すごく象徴的だと思います。結局、技術ってある程度のラインまでは誰でも到達できるようになるんですよね。AIが出てきたことで、それがさらに加速している。だからこそ、その先に何があるかというと「どういう世界を提示できるか」になる。写真でも同じで、昔は“きれいに撮れること”自体に価値があったけど、今はもう誰でも撮れる。その中で残るのは、どんな視点で切り取っているか、どんな意味を与えているかなんですよね。

金子

そうなんですよね。だから逆に、技術だけを追いかけていくと、どんどん均質になっていくというか。みんなが「上手い」と思うものにはなるけど、印象には残らない。

宮田

まさにそうで「みんながいいと思うもの」って、ある意味で“正解”なんですよね。でも、その正解に寄せていくと、結果的にどれも同じになってしまう。

金子

そうですね。だから結局「何を作るか」というより「どういう世界を立ち上げるか」なんですよね。

宮田

その“世界”って、フィクションの中だけの話ではなくて、気づかないうちに現実にも影響を与えているものだと思うんです。

現実がフィクションに近づいている現代

今の時代、AIがかなり身近になってきましたけど、現実がフィクションに近づいてきている感覚ってありますよね。そのあたりどう見ていますか?

宮田

さっきの話とも繋がるんですけど、金子さんの作品って「未来を描いている」というより「未来を先に体験させている」感じがあるんですよね。僕の中では『真・女神転生』の世界観って、ずっとどこか現実の延長にあるものとして捉えていて。

金子

なるほど。でも、それって別に最近急に出てきた話ではなくて、昔から人間が考えてきたことでもあると思うんですよね。理想の世界だったり、逆に崩壊した世界だったり。形は変わっても、やっていることの中身はずっと同じなんじゃないかなと思います。

宮田

まさにそうだと思います。たとえば『アルカディア※1』みたいな概念って、当時はかなり衝撃的なものでしたけど、今の時代って、ある意味それに近い状態がすでに生まれてきている気がするんです。AIが人の欲求に最適化して、心地いい情報だけを提示してくる世界って、見方によってはかなりそれに近い。

金子

ああ、それはありますね。結局、人間って楽なほうに流れるので、そういう環境があれば自然とそうなる。むしろ、そういう構造をどう扱うかの方が重要なんじゃないかなと思います。

宮田

あとは『東京崩壊※2』みたいな話もそうで。あれも単なるフィクションではなくて「都市ってどういう構造で成り立っているのか」とか「秩序が崩れたときに何が起きるのか」っていう、かなり本質的な問いが含まれていると思うんですよね。

金子

そうですね。ああいうのって、特別な未来の話というより、ちょっとしたきっかけで普通に起きることだと思っていて。だからこそリアリティが出るんだと思います。

宮田

だから、神話とか宗教を扱っているように見えて、実はずっと“現代の話”をしている。そこがすごく面白いところだと思っています。

金子

あんまり未来を描こうと思ってやっているわけではないんですけどね。ただ、人間がもともと持っているものをベースにしているので、結果的にそう見えるのかもしれないです。

宮田

たぶんそれって“人間の本質”を扱っているからなんですよね。時代が変わっても変わらないものをベースにしているから、結果的にどの時代にも接続できる。

※1 『アルカディア』・・・ 『真・女神転生Ⅱ』に登場するメシア教の理想郷(管理エリア)の名称。人々が機械に接続され、理想的な世界をバーチャルに体験している状態として描かれ、苦しみのない世界の裏側で、現実から切り離された存在になっているという構造が示されている。

※2『東京崩壊』・・・『真・女神転生』シリーズにおいて繰り返し描かれるモチーフ。悪魔の出現や核戦争などを契機に東京が壊滅し、既存の秩序が崩壊した世界を指す。文明や社会の前提が失われた状態から、人間の価値観や選択が問われる舞台として機能している。

正解が最適化される時代に、逸脱できるか

AIがこれからますます進化していく中で、人は何を大事にしていくべきだと思いますか?

金子

うーん、ちょっと答えになってるかわからないんですけど・・・若い頃はやっぱり「正解」を知りたかったんですよね。絵の描き方もそうですし「こうすればうまくなる」みたいなものをずっと追いかけていた時期があって。でも、それをやっているうちは、自分のものにはならないというか。それを止めたときに、初めて自分のやり方が見えてきた感覚がありました。周りから「それは違う」と言われることも多かったんですけど、それでもやるしかなかったというか。

宮田

今のお話が、もう答えだと思います。今の時代って「正解に早くたどり着く力」はどんどん価値が下がっていくと思うんです。そこはAIの方が圧倒的に強いので。むしろ人間に求められるのは、その外側に出ていけるかどうかだと思います。しかも今は、SNSやアルゴリズムによって、自分にとって心地いい情報だけが強化されていく“エコーチェンバー”の状態が当たり前になってきている。気づかないうちに同じ考えの中に閉じてしまう構造があると思うんです。

金子

そうなると、やっぱり違うことをやるしかないですよね。

宮田

はい。今の若い世代ってすごく優秀なんですけど、その分「外れないようにする力」も強い。周りとのズレを避けようとすると、どうしても逸脱しにくくなる。

金子

はみ出すっていう発想自体が、あんまりないのかもしれないですよね。

宮田

そうだと思います。だからこそ、ある意味で“逸脱する力”というか、正解からあえて外れてみる力が、これからはすごく重要になるんじゃないかなと思います。

最後に、これからの時代に創作や表現に関わる人たちに向けて、メッセージをお願いします。

金子

結局、創作や表現って、自分のオリジナリティ・世界観を突き詰めていくしかないんですよね。最初は正解じゃないように見えるけれど、それでもやり続けていくことで、だんだんその人なりのやり方になっていく。で、それって後から振り返ると「ああ、自分はこういうことをやってきたんだな」っていう形で、一本の線になってくると思うんですよね。誰かの正解をなぞってるだけだと、それはたぶんできない。だから、うまく言えないですけど・・・最終的には、それをやり続けた人のところにしか残らないものなんじゃないかなと思います。

宮田

金子さんがおっしゃっている通りですね。やり続ける中で形になっていくものこそが、その人の個性であり、最終的に価値になっていくんだと思います。これからは、積み重ねてきたプロセスそのものが、その人の価値として見られる時代になっていくんじゃないかなと思います。

貴重なお話、ありがとうございました。

おわりに

ゲームクリエイターとデータサイエンティスト。異なる領域でそれぞれの“異質”を貫いてきた二人による対談は、単なる技術論や創作論にとどまらない、本質的な問いを浮かび上がらせるものでした。AIの進化によって“それっぽい正解”がいくらでも生み出される現代。価値を分けるのは「どんな体験をつくれるか」「どんな世界を立ち上げられるか」だと宮田氏は語っていました。これはエンターテインメント業界に限った話ではないと感じました。

本対談は、AIによって大転換を迎える現代において、多くの示唆を含んだものだったのではないでしょうか。この対話が、エンターテインメントの枠を越えて、これからの時代を考えるヒントになればと思います。

取材・文:田中 大喜(株式会社スイミー・パーク)
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